2210-12月期アニメの感想

 もう2022年も終わりとなってしまった。世の中にしろ自分が普段活用しているTwitterの場にしろなんやかんや色々ありすぎて良くない方向にドラスティックな転換期を迎えている気がするがその辺の細かい感傷はほっといて、変わらず見続けているアニメの感想の話をする。
 アニメの放送スケジュールもかなり変則的で相変わらずクールの終わりに来ても最終回を迎えていないアニメがあるのだが、それに合わせると多くの既に終了した作品の感想を語る機運を逃しかねないので一部終わっていない作品の感想も書いてしまっている。ついでに終わって無いんだけど語っておきたい作品の感想も書きたいものは書く。今回も自分の視聴環境的に月曜から放送されていた順に作品が並んでいる。

 ちなみに前期はこちら↓

gecko-bushido.hatenablog.com

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・新米錬金術師の店舗経営

 キラッとプリ☆チャン以来久々となる博史池畠監督のテレビアニメ(テレビ以外では間にトニカクカワイイOVAがある)。長期的な制作期間を要するアニメが多い昨今なので、名前を見かけるのが久しぶりなのは仕方がない…と見せかけて更に2023年には3本も監督の新作を控えており、同時進行での多産ぶりを見せている。相変わらずワイワイ楽しいテンポを生み出すのが抜群に上手いコンテで、腕が切断されたアイリスさんを筆頭に皆んな結構危険な目にあっているのに全体的にはコメディアニメの空気になっているのが凄い。監督の過去作AKIBA'S TRIPのように、女の子たちが物理的に酷い目にあったり、性格の意地汚い所を曝け出す姿を描いても見やすいつくりの作品に仕上げられるのは唯一無二の技前だと感じる。
 また、旗揚げけものみちや探偵はもう死んでいるなどの過去のENGI作品でも活躍している橋本隆希さんが戦闘シーン作画でその技術を存分に振るっており、元々アクション作画回の演出として名を上げた池畠さんとのシナジー効果が見られた。細かな破片の数々など、とにかく画面の作画密度に圧倒される。

BLEACH 千年血戦篇

 優勝!!!!!!今期ナンバーワンアニメです!!!!!
 感想2作品目にしていきなりナンバーワンアニメの話してしまって後はどうするんじゃいという感じだが、月曜から順に書くと最初に自分が決めた通りにしないと据わりが悪いのでここで感想を書く。
 原作のBLEACH千年血戦篇は、昔BLEACHにドハマりしていた自分の熱が完全に冷めてしまうには十分なガタガタの内容だったと断言したい最終章であった。実際今回のアニメでも隊長たち4人が卍解をすんなり奪われたり、それを受けて恋次が声高にどうやって戦えば良いんだと泣き言を叫んだり、最強の山爺すらその失敗を見ていてなお「自分の卍解は力が強すぎて奪えないのだろう」と高を括っていたら別に奪えない訳ではなかったりと、大枠はガタガタの展開から変えようが無く、隊長たちのザルっぷりがしっかりアニメ化されていた。
 そんな展開になる事が分かっているので1話を見るまでは今になってアニメ化しても視聴者から笑われてしまう未来が待っているんじゃないか…と心配していたのだが、大枠のシナリオの緩い所を補ってなお圧倒的な収支プラスに持って行ける程にはシナリオを補完した上で、コンテ・演出・作画・動画・色・美術・撮影・音響など全ての要素がずっと「原作はこんなにもカッコいいんだ」という長所を引き出すのに終始していて、スタッフたちの原作の力を信じる気持ちを非常に強く感じられる、超ハイクオリティアニメとなっていた。
 そうなんだよな、確かに原作終盤のシナリオにはガッカリしてしまったが、俺は当時よく「オサレ」と叩かれていたようなデザインやネーミングセンス、ポエムに関してはずっと大好きだったんだよな、という少年漫画読者としての気持ちを思い出させてくれたアニメであった。

 例え長方形の棒の積層であっても、キャラを構成する色とその面積比が合えば何のキャラか分かるぐらいに、設定の色がアニメキャラの認識に必要なウェイトの大半を占めていると言っても過言ではないと思うが、BLEACHではとにかく情感優先で場面に応じた色替えが多くて、スタンダード設定にある色の通りの場面はかなり少ない。色変えの傾向も暗めのトーンや1色のフィルターを掛けたみたいな色ばかりで、普通ならば本来の基本設定が持つ色の境目がかなり分かりにくくなるはずなのに全く問題なくキャラを認識出来ている画面のクオリティの高さには舌を巻く。特に1話と6話は圧巻の出来であった。
 勿論原作自体が持つデザインセンスやキャストの豪華さもあってのキャラ認識のしやすさだが、むしろその二つを理解しているからこそキャラ認識をそちらに頼った上で積極的に色替えをしてそれが演出面で全部成功していたので凄い。作画以外の全セクションでも画面を良くするためにやれることを全部やるのは勿論昔から軽視されていた訳では無いが、現代的なアニメ作りでは殊更求められるようになった要素であり、1クール通して全話総合的に高い水準でやってのけた歴史に残るような作品だったと思う。残り3クールもこれが味わえるというのが楽しみすぎる。

・忍の一時

 日テレのドラマ、あなたの番ですや真犯人フラグの脚本高野水登さんを引っ張って来てのオリジナルアニメ。制作タイミング的に、話題になる前に目を付けて起用したんだなあと制作側のセンスの良さに期待していたが、もう一つ噛み合わなかったかと思う。
 最終話、今更カメラで撮っていたから証拠になるのかとか、結局最後は戦って決着をつけるしかなく時貞が頭領殺しの罪をかぶってくれるとか(秋葉メイドのように出頭するのかと思ったら時貞は逃げるし)、華麗に欺き相手を騙す仕事人と残酷な暗殺者という忍びの持つ明と暗のパブリックイメージをそれぞれからもぎ取って組み立てた感じはあった。
 紅雪が洗脳で弓香さんを殺してしまった時に口元が初めて映るとか、最終話の唇のアップでの芝居とかそういう所のアイデアは良かったが、せっかく主人公の幼馴染付き纏い感情薄ヒロインなんだからもっと萌えぶりを発揮して欲しかったぜ。

・勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う

 いわゆる追放系だが、ちょっと主人公の能力の特異さもそれを主人公と悪人だけが見抜けず、審美眼が正しい()ヒロインたちだけがちやほやしてくれるのも都合が良すぎたな…。レインと同一視される他のビーストテイマーが本当に不憫で、幼い魔物を使役するために育て上げた悪(ワル)ビーストテイマーさんの事も、それはそれで努力してるんだから認めてあげなよ!という気持ちになった。
 タニアの胸の形が物凄く綺麗な曲線でナイスキャラデザだな…と毎話思ってたんだけどなんかそれだけをわざわざ指摘するタイミングが無かったので今更ここで白状しておく。言わないままの方が良かった気がする。

・クールドジ男子(※継続2クール目有り)

 1話15分で2クールあると言う事でまだ終わって無いのだが、今からたった1人でも視聴者が増える・または今視聴している人に共感してもらえるなら幸いと思い、感想を書いておこうとするぐらいには楽しんで見ている。自分の中で今期上位10作品内には入ってる。
 自分もドジというか不器用でしょっちゅう机の上の物を落としたり実況中のタイプミスや文章の組み立てミスを起こしたりと意識ではコントロール出来ない所でやらかしを多くしてしまうタイプで日々情けなく思っているだけに、1話を見た時は単なるあるあるギャグに思えて、これで作中人物が許されているのは「※ただしイケメンに限る」で処理される話だと不貞腐れてしまったのだが、しばらく見ていてタイトルはパッケージでしかなく、4人のメインキャラを取り巻く人生模様だと理解すればかなり楽しめるようになった。
 最新12話を除いて全話コンテを切るだけでなくたまに演出も、果ては脚本まで書いている今千秋監督の働きぶりとその影響がしっかり映像に出ていて、スマートで見やすいコメディに仕上がっているのが凄い。今千秋監督といえば初監督作がひぐらしのなく頃に(旧版)でその後もコンスタントにスマッシュヒット作を量産しているが、その中でも監督が純情ロマンチカ世界一初恋のアニメを作ったからこそ、我々は男子のイチャイチャコメディアニメを楽しむ感性を数年早く手に入れる事が出来たと思っている。その影響のほどについて具体的な論拠は無くてあくまで感覚的な話でしかないが、アニメ史に名を残すべきようなパイオニアなのではなかろうか。
 そんな今千秋監督が脚本・コンテ・演出を務めた10話「休みの日」は特に良かった…。貴之が姪・りりかちゃんの面倒を見る回と言う事で、まあまずりりかちゃんが可愛かったという加点があるが、そのりりかちゃんに対して敬語で、決して距離を置いてる訳では無く温かく接してることが感じられる貴之役:梅原さんの演技が凄く良かったなあ。非常に優しく穏やかな気持ちになれた。
 また最新12話も、ハンドボール部の瞬が先輩たちと少しでも一緒に部活を続けたい気持ちはあるが空回ってしまう中で、個人のドジに執着するよりも大きな集団・全体で見た時に良い結果が出せるようにと吹っ切れたのも1クール目の締めとして非常に素晴らしい結論だった。

 12話ではなぜか西尾鉄也さんが新グルグル以来5年ぶりとなるテレビアニメの原画に参加していて、スタジオぴえろ制作とはいえ謎の豪華さも見せていた。

チェンソーマン

 どうしても原作の持つ巨大なパワーとその影響力に負けてしまっていたなあという印象だ。吉原達矢さんの4話や御所園翔太さんの8話のように、他の作品でも「神回」レベルの話数を作れるスーパーな人がコンテ演出をやってようやく「おお、今週は良いじゃん」ぐらいのモノだと思ってしまった。
 わざわざ他作品と比較して貶すような事をしたくないが、今期は他にも主に作画の面で1クールに1つあれば凄いぐらいのハイレベルな作品が5つも6つもあっただけに、アニメチェンソーマンの良い所を挙げようと考えると、いやその面に関しても他作品でもっと上手くやれていたものがあったなと頭をよぎる巡り合わせの悪さもあったと思う。監督の中山竜さんといえば代表作はゲーマーズのOPコンテ演出のイメージだが、あれぐらいハイテンションなものでやって欲しかったなあ。

ヤマノススメ Next Summit

 1クールに1つあれば凄いぐらいのハイレベルな作品の1つ。4期にしてついに30分枠になり、最初は15分×2本→最後は30分1本と、やりたい話に合わせて尺コントロールも抜群で凄かった。富士登山前にひなたが持って行くのを諦めた羊羹をここぞのタイミングであおいが取り出すドラマ性と1期からの連続性の両方を引き出す脚本が見事すぎる。制作側がアニメをまだどれぐらい続けるつもりか分からないが、少なくとも富士山に登る、それも一度失敗した上でのリベンジで、という山を登る作品で扱うテーマとして最も大きいまさに山場の話で一番のドラマを持ってくるべきなんだ!という気概が感じられた。
 また、絵柄が作監ごとの特徴でお任せになる現代では珍しいアニメであるが、その中でも9話Bパートの髪の毛の束感を表現している絵柄が特に好きだった。作監:河本有聖さん。

 引きの小さい絵じゃしっかり描いても潰れるので線を少なくする→実線そのものも取り払って色の塗り分けだけでいけば視認性が更に上がるのでは?という革命的アイデアを見た。元の自分のツイートが×実戦→〇実線、×色トレすな→〇色トレスな、とタイプミスしまくってるのは興奮していたからということにしたい。アップの絵柄だけで無く引き作画表現にも執念を燃やす作品であるが、9話Bパートはこういう表現手法面でも新しさが見られて良かった。

・恋愛フロップス

 放送が始まる半年ぐらい前に設定などの情報が解禁された時点から、今時こんなコテコテの作品やる訳無いだろと何か謎がある事は予想されていた。実際その予想は的中していた訳だが、それまでの各キャラ担当話数が下ネタでコーティングした以外は往年のギャルゲーエロゲーの文脈で構築されていたのは分かるとして、その種明かしされた世界の真実もギャルゲーエロゲーでよく見る文脈でしかないので悪く言えばパクリ、良く言っても何らかの作品の模倣であり、オマージュにまでは至って無かったかなと思う。振り切る下ネタの方向性と見ている側の感覚が合った4話のイリヤ回は面白かった。なんか他のアニメでもやたらチンコネタが出てきた週だったので相乗効果もあった。(こういう事をブログの文で書くならちゃんと文字を一部〇とかで隠したほうが良いんだろうか!?そんな事を意識する方が余計に恥ずかしいのだが…とか考えている)
 ラスト前の一時的なサブヒロイン総脱落展開で、ヒロイン達の思い出と言いつつ愛の記憶が源泉にあったので、じゃあこのサブヒロイン自体を好きなプレイヤー(自分自身)の気持ちはどうなるんだ!と思ってしまうのもある種周回後にトゥルーエンディングの存在するギャルゲーエロゲーっぽさがあった。

・VAZZROCK

 まさか、まさかまさか、ツキノシリーズからついにこんなにも面白いアニメが生まれるなんて…と動揺と感動の両面で激しく心を動かされた。1話を見た時はメインキャラ12人が収録のテイにしてはどういうカメラ配置とセットなんだよというアングルでずっと喋り倒すのでいつものツキノシリーズだあ…とある意味安心していたのだが、そこからが違った。なんと今回は全部メンバー2人1組で関係性の話をやる上に、驚くべきことにメイン12人以外にも彼らに関係のあるサブキャラを1人2人絡ませてきて会話を成立させているのだ!!
 …そんな当たり前みたいな部分が驚く所なの?と思われそうだが、これがこれまでは一切、とまでは言わずとも特に直近のツキプロ2では見られなかった要素だった。非常に生っぽい会話のセンスをしている脚本でこれまでは意図が掴みづらかったものだが、第3者が関わるだけでこんなにもこのキャラ達の想いがスッキリ理解できるのか、という「発明」に立ち会えた感動は、ツキプロ2を全然分からん!と思いながら毎週見てたら途中でクオリティアップ目的のために放送延期になって、再放送でもまたイチから見ていた人たちにしか得られないものだとマウントを取りたい。
 …という所まで最終回を見る前に感想を書いていたのだが、うーむ、ちょっと最終回は残念だったなあ。ツキプロ2の最終回ではCGを使って各グループのライブをちゃんと映像化していたのに対して、今作ではあまりに動かないだけでなくコンテ面でも単調なライブだったので、これに関してはツキプロ2に軍配が上がるかなと思った。撮影処理やライブ会場に映るモニターグラフィックスはシリーズの中で一番レベル高かったですが。VAZZ ROCKも他のシリーズみたいに2期やって進化したライブ回を迎えて欲しい。

・不徳のギルド

 BLEACHという高すぎる壁&自分にとっての思い入れがありすぎる作品が無ければ間違いなく今期ナンバーワンにはこちらを挙げていたぐらいには素晴らしい…、本当に素晴らしい作品だった。
 主線を太くしたイラストチックなルックに、可愛いデフォルメ表現、それでいて細かな動作も省略しない芝居作画、えっちなネタを扱ってるのに腹から笑えるギャグセンス、そしてやっぱりえっちな展開はしっかりえっち、と全てが完璧で、1話から思いっきり心を掴まれた。1話はコンテ演出が監督の朝岡卓矢さんだが、前作の回復術士が作風的に見ていて非常に暗い気持ちになるし地上波BS版では規制シーンがずっと壁を映してるだけで退屈だしと苦手意識を抱いていたのに、原作とスケジュールやスタッフが噛み合えばここまでの物を作り上げられるんだと参ってしまった。勝手に人の実力を見限っていて本当に申し訳ありませんでした。シナリオも原作からして非常に達者で、出された設定やシチュエーションがその場限りで見てもシリアスにギャグにと上手く機能しているのに、後からちゃんと繋がる形で回収されるので気持ちが良い。勝手に医者に扮して健康診断する回が後々全員に関係してくるのが卑怯すぎる。
 見てる人皆が言ってる事なので言わなくても良いのだが、やっぱり主人公のキッ君が、キッ君が良いヤツなんだよな~~~に尽きる。労働辞めたい気持ちがありつつ見捨てずに損な役回りを買って出る苦労人成分や、えっちな目に遭うも危機は危機なのでかわいそうなヤツ半分・多少嬉しがって煩悩をちゃんと見せて人間らしさもあるヤツ半分のバランスの良さ、ギャグを盛り立てるセンス系ツッコミの上手さ、単独で萌えもやれてしまう照れ顔の可愛さなど近年まれにみるレベルで非常に好感度の高い主人公だったように思う。
 そしてまあなんと言ってもベストエピソードは7話のトキシッコ回だろう。

 絵コンテ・演出・作画監督・原画・動画検査:榊原大河さんの高クオリティかつ八面六臂な働きぶりたるや。しかも普段は主に動画検査をしていて商業作品としてはコンテ・演出を初担当らしいのだからトンデモ無さ過ぎる…。いくらセンスがあると言っても、実際にコンテ演出を何回かこなしていってコツを覚える事も無しに上手くやれる程には現実は甘くないはずなのだが、動画検査の立場で画面のフレーミングや会話のテンポ感、撮影処理の使い分けに関してもここまで培えるんだ…。戦闘作画でも今期他の作画アニメに肩を張れるぐらい見事、そしてトキシッコさんはあまりにも萌えであると、年間ベスト話数にも選出となる回だった。

 このツイートに対して、5RTぐらいしかされてない時にアニメ監督の安藤良さんもリツイートして、この作画の丁寧な仕事ぶりを褒めていた。安藤良さんの地に足ついた作風的にこの芝居を評価するのは分かるのだが、それはそれとして安藤良さんも不徳のギルドタグで検索とかしてるんですか…?としか思えない見つけ方で笑った。
 なにかこう、時代に絡めて語るのは良くないと思いつつ、今年のM-1グランプリで毒舌またはある種の時事ネタでウエストランドが優勝出来た事と同じぐらい、2022年に女の子(男の子もだけど)がひん剥かれるエロコメディをやってここまでの名作を作れるのだなあ、とテクニック一つで時勢すらひっくり返して上り詰める姿に時代を担う夢を託したくなった作品だった。

・モブサイコ100III

 原作の完結までをアニメ化。Ⅱの範囲である爪のボスまでがバトルとしては最も山場であり、Ⅲの範囲はどうなるかな?と思っていたが何の心配もいらなかったですね…。むしろちゃんとこっちの方が本番であり、最後まで単純な力だけが全てでないというのを見せるのが上手すぎる…。
 ボンズの誇るスペシャルアニメーターたちが活躍する中でも4話の内田直人さんコンテ演出回は良いなと思ったが、それ以上に8話の伍柏諭さんコンテ・演出・作画監督回はただただひれ伏すしかない絵の上手さを見せつけられた。

 勿論原画を担当している各人が上手いのもあるが、こんなに一人のスタッフの影響で画面が最高に良くなることあるんだってのをそれこそモブの圧倒的な力に重なるぐらい見せつけられた回だった。アバン1カット目からCパート最後まで全部絵が上手い。止まってても動いてても全部上手い。上手すぎて引いた。作画アニメが多すぎる今期の環境の中でも作画が一番凄かった回を挙げろって言われたら間違いなくモブサイコ100Ⅲの8話を挙げてしまうと思う。↑にリンクを貼っている部長が立ち止まってからカメラがPAN Upするカット、カメラがぐるぐる回る派手さとか一切無いただの上PANなのに本当にスッと最高のフレームで止まるからあまりにも気持ちがいい。歩き疲れた部長が何かを言うぞ、という事を表現するのにこれほど的確なフレームは無い。流石に伍柏諭さんコンテ演出を見かけるのは年に1回あるかないかぐらいだがどれぐらい掛けてこれを作り上げてるんだろうなー。

・虫かぶり姫

 お淑やかな女性主人公で優しいイケメンが寄って来てくれる甘い恋愛もの、という事でかなり好きなジャンルなので期待していたのだが、どうにもエリアーナ姫の自己評価が低すぎるのとそれに我慢ならず行動に出る殿下がキモい(作中の周りの人物から見ても正式にキモいという評価が下されている)ことの食い合わせが悪くて、スッキリ出来なかったなあ。
 勘違いラブファンタジーと宣伝で銘打っているものの、視聴者から見てるとどう見ても好き合っているのに、自分にもチャンスがあると思って割って入る悪役令嬢ズがあまりにも勇気あるなコイツら…という感じだった。
 とはいえ最初に言った通り元のジャンル自体が好きで殿下役:木村良平さんのこの手のタイプの演技もめちゃくちゃ好きなだけに上手く行ってる時はしっかり楽しめた。最終話のラスト、今期も良い仕事をしていた伊東歌詞太郎さんの名EDと共に甘い二人の会話を繰り広げるシーンはちゃんと見応えがあって、最後が良かったからなんか名作に思えている。

・Do It Yourself!!

 90年代後半から00年代前半のキッズアニメのようなルックとシンプルなデザインでも魅せる作画の良さでオリジナルアニメとしての存在感を打ち立てている事は素晴らしいが、シナリオは少し上手く行かなかったという印象だったかなあ。
 役割論みたいなもので登場人物の事を評価するのは良くないんだけど、メインの中でも主役のせるふ、ぷりんはさておきジョブ子のキャラが立ちすぎていてたくみんとしーは人数集めの必要性以外では居なくても話が成立出来そうだったなあ…と思ってしまう。一つの話のパターンに当てはめてもしょうがないかもだけど、登場人物として設定した以上は目立つお当番回とかがあっても良かったんじゃなかろうか。
 安藤尚也さんのコンテ演出がこの世で一番好きかもしれないので6話の海回で数年ぶりに話数コンテ演出を見れたのは嬉しかった。光の使い方が上手いんすわ。

・アキバ冥途戦争

 結局最後までメイドたるやを説きたいのかメイドの皮をかぶった仁侠モノをやりたいのか、残念ながらよく分からなかったなあ…。1話から大量のモブメイドが嵐子によって殺されているのをギャグで消化しているのに、当の嵐子が死んだ途端なごみがメイド間の抗争について異論を唱えている。嵐子が死ぬ直前に行っていた凪へに訴えかけに行く時も、抗争の終結間際にギャグで一人メイドが死んでいるだけに、命が重いのか軽いの分からないのでなく、総合的に判断するとなごみにとって嵐子やねるらの命は重いが、モブメイドの命はどうでも良いと考えているように見えてしまった。
 物語ラストでは、時を経て2018年になり抗争を乗り越えて体に障害を負ってなお、嵐子と同じ36歳となった今でもなごみがメイドを続けているという、メイドの在り方の継承を遂げた物語のように終わったが、現在の2022年でなく2018年で終わるのがただ単に「なごみが36歳の年だから」以外の理由が無くて収まりが悪かった。
 ここ最近の作品を見ていてどうもP.A.WORKSオリジナルアニメに対して信頼が低くなっており、どれも企画時点では面白いと思える要素をただ出すだけ出して、物語にするにあたって詰め切らずにそのままアニメ化に突っ走っているんじゃないかと思わなくもない。ずっと謎だった無口のパンダ・御徒町はただ嵐子に怯えているだけだったのがなんとも肩透かしであり、結果論だが謎めいてるなら謎めいてるにしてもそれまでの話数で嵐子が話しかける時にサッと逃げ出すとかがあれば良かったんじゃなかろうか。Febriの増井監督、構成比企さんのインタビューにも目を通したが、脚本陣で話が進んでから監督が合流、御徒町について10話を書く段階で固めていったという辺りに自分の疑念が加速してしまう(こういうインタビューでの否定的な判断は自分の解釈が正当化されるように都合良く捉えてしまっているだけだとは思うが)。
 不満点しか無かった訳では無く、全編通してキャストさんの演技がとても素晴らしいというのは他作品と比べても突出していた点だと思う。特に店長役:高垣彩陽さんが喋るたびに100点の演技を叩き出すので、何かが起きるたびに店長のリアクションを期待する気持ちが生まれていた。立て籠もりして絶体絶命の際に店長が言った「こうなったら仕方ない、皆が死ぬとこなんて見たくない、私先に逝ってるわ」という発言が凄くツボで、死を選ぶ事すら他人のせいにしている、姑息な人間の完成形を見れた気がする。
 10話の市村徹夫さんコンテ・演出回は非常に立体感を感じられる画面で、常に画面の手前と奥を意識させるような人や物の配置が見事だった。…あれ思ったよりアキバ冥途の事熱く語ってるな?

・ヒューマンバグ大学

 絵柄で低予算の作品と侮るなかれというか、むしろこの絵柄だからこそグロテスクな暴力描写やゲテモノ食品などを扱えるようにしているクレバーな企画で、毎回出てくる世界中の珍現象の見せ方が上手く最後まで楽しめた。
 キャスティングが豪華なのも絵柄を補うためだと思うが、キャストが無駄無く実力を発揮できるようテンポ感を外さない編集センスも光っていた。ヒロインに小倉唯さんをチョイスしておいて低めの声の大人の女性を演じさせるというのも良かったし、斉藤壮馬さんがオッドタクシーと被るような頭のイカレた犯罪者をまた演じる事になるのも、しっかりキャストの力量を見定めた上での起用だと思うので、今期アニメで一番キャスティングに真摯に向き合っていた作品だったと感じている。

うる星やつら(2022)

 声優さんがその演技力を如何なく発揮していた作品の話を続けたが対照的に、うる星やつらはキャストの力を上手く引き出せていないディレクションと編集だと感じた。とはいえこれは自分でもあくまで感覚的なモノでしか分かってないし言葉で全然説明出来ないんだよな~~~と思いつつも、今からめちゃくちゃフワっとした話をする。
 主人公・あたる役の神谷浩史さんの声の良い所は、丁度最近よくやっている物語シリーズのCMでも機能してると思うのだけど、「奥の方」から出てくる声というか、耳に遅れて当たる声に良さがあるために連続する台詞を語っている時こそ気持ち良くなれると考えている。それに対してうる星では、オリジナルキャストの古川登志夫さんの声を意識してか「前の方」の声だけで演技してしまっているように思えた。実際古川登志夫さんの声をイメージすると、確かに耳にまず当たる音からしていきなりハッキリと聞こえる、一音一音のキレの良さが魅力だと思うのでその再現を狙っている事自体は間違っていないのだろう。しかしその神谷さんの演技との噛み合わなさをずっと気にしながら見てしまっていた。
 うる星の感想と関係なくなってる上に全然伝わらない事を書いている自覚があるのだが、いつか話題にしてみたかったので折角だし触れてみた。こうした声質の解釈について、誰か技術的に知識のある人の話を聞くなり文を読んでみたいのだが、抽象的すぎてなんて調べたら良いかよく分からない。ちはやふるの原作でやっていた話がこれに通じると自分では思っているのだがどうなんだろう。↓みたいな高度な技術の話をしてるつもりはないが、声質とひと文字ずつの聞こえ方の解釈は正しくこんな感じだ。

・万聖街

 かわいい絵柄で中国アニメらしく派手なアクションもこなしつつ、毒気のあるギャグやメタネタも嫌味なく出来る優秀なコメディアニメ。翻訳にしても「特定話数に制作費をつぎ込む」というネタが中国にもあるんだ、と思った。こっちに流れてくるようなアニメならそんな事言いつつ日本とは全然違うビッグスケールの予算感がありそうなんだけども。
 シェアハウスで多人数キャラの連帯感・家族感を出しつつ、天使や悪魔の属性を上手く利用して性格や行動原理に落とし込む事でキャラを立たせており、ニールとリリィのデートを追いかけるそれぞれの兄:ニックとリンのように、その中でも特定の仲の良い関係性が複数構築される美味しい作りで見事だった。
 これまでも中国アニメがいくつも翻訳されて日本に来ているが、今までで一番好きかもしれない。まあこれはショートアニメだから用語に押しつぶされてストーリーが分かんなくなることが無いというのも大きいと思うが、何はともあれしっかりキャラに愛着が沸いたので日本でも2期が決定してるのは非常に嬉しい。

・ニンジャラ

 まだ続いているが、今期44話にて今回の記事のヘッダー画像にも選出した、パワー溢れるサブタイトル通りの内容を繰り出してきたので触れておきたい。単発の話なので冒頭でいきなりなんやかんやあってメインキャラが全員うんちの姿になってしまうのだが、インパクトだけの一発ネタ回でなく、むしろシナリオの技巧が光る名作回であった。
 一応うんちになるのは今回限りの突発的な事ではなく、カッペイが何度か変身しているのだけど、他のキャラまで姿が変わるのは初めてと言う事で、カッペイがうんちとしての楽な姿勢や移動方法を教えて妙な先輩風を吹かせるのがまず面白い。また、見た目が全員同じという事で誰が喋っているのか分からず、まず自分の名前を名乗るように取り決める配慮も、視聴者は勿論、おそらく製作スタッフやアフレコキャストさんの都合もあっての事なのが二重に面白い。全員〇〇です、と名乗ってから喋るので一定のテンポ感が生まれているのも、異常なシチュエーションに巻き込まれたコント感を強めていた。本作のマスコット・ガムッチが自分の見た目と似ているからとうんちになったバートンたちに頬擦りする姿も、実際ガムッチが可愛いだけにお前はそれで良いのかよと見てるとジワジワ笑いが込み上げてくるなど、ストレートな表現のギャグを打ち込みつつも、ボディに効くギャグもしっかり使い分けていた。
 本作はメインキャラの内、主人公バートンたち4人が大人から子供の姿になっており、一方で他4人は純粋な子供という事で、半々に精神年齢が分かれているのでリアクションにも差が出やすいのが面白い要素だ。一刻を争う緊急事態でネット検索する必要があるものの、自分のノートパソコンをうんち姿で操作されたくない大人組のジェーンの心理など、デフォルメされた絵とギャップのある、良い具合に大人目線でのギャグになっていた。名探偵コナンだと基本ノーリアクションの灰原が数に含まれず、コナン1人だけ大人の行動を取るとそこが少年探偵団にとってのツッコミポイントになるので生まれない状況であり、差別化されているなと思う。
 全部説明してしまうと流石にどうなんだと思ったので一番面白かった所をボカすが、最後まで今回用意したシチュエーションをフルに活かしており、他作品も含めて年間で見てもこのレベルのまとまった話は中々拝めない出来であった。

SPY×FAMILY(第2クール)

 2クール目は1クール目より面白かったのだが、2話1本のショートアニメ的構成にしている話数が多くて、1クール目の長編で感じた原作イメージとのテンポ感のズレをあまり意識せずに済んだからかな…と思わなくもない。ペース配分も含めてシナリオ段階からコントロール出来るオリジナルストーリーの劇場版は楽しめそうだと期待している。
 とは言えとんでもなく世間的に大ヒットしているので、劇場版でそんな急に話のつくりをガラッと変えて見る人を困惑させることはしてこない、というかする必要が皆無だろうなとは思う。原作もアニメになる前から単巻100万部以上の発行部数を記録しているパワーを持つが、子供から大人まで普遍的にここまでの大ヒットを飛ばすとは思っていなかった。なんならマイナンバーカード推進のためのタイアップや、紅白のナレーションに江口さん早見さんを起用など、既に国にも目をつけられている。

・ぼっち・ざ・ろっく!

 例にもれず女の子だけの話に全然自分がのめり込めず、非常に人気の話題作となっている中で置いて行かれないように理解しようと頑張って見ていた。意図的に作画を崩した超デフォルメ、実写映像やクレイアニメ、あえての簡素な3DCGアニメなどシャフトで新房監督アニメがやっていたような様々な表現技法の手数で魅せる、という意味ではかぐや様と近いはずなんだが、こっちはかぐや様と違って作るの大変そうな手法ばっかりだな…と考えてしまっていた(かぐや様でもハイレベルな作画や別媒体での製作ノウハウありきの手法はいっぱいあるが、それ以上にフレームやカメラワークで魅せる技が多いので作り方をイメージしやすい)。
 中盤ぐらいまでずっと、「ぼっち(後藤ひとり)とあとその他キャラ」ぐらいの印象で作られているアニメのように受け取れるのを不思議に思っていた。ぼっちが人とのコミュニケーションを上手く取れず慌てふためいて果てはドロドロに溶ける(周りからもそう見えてる)、という奇行にツッコミは入ってもdisや弄りは極力入らないだけに、余計に周りとの温度差があり、ぼっちの行動に対する周りの反応を受けてまたぼっちが反省する、とぼっちだけの思考で自己完結しているように見えていたのだ。それでも世間的にはぼっちに並ぶぐらい結束バンドの3人やきくりのファンアートなども見かける程に、キャラクター人気が等しく高まっていたので猶の事凄いと思ったのだが。
 アニメにするにあたって原作からシナリオは大分整理されているようで、印象的なものだと虹夏がぼっちに対して「クラスにひとりはいる子だ…必死に勉強してるのに要領が悪い子…」と憐れむギャグがカットされているというつぶやきを見たのだが、その辺りでようやくぼっちが一歩踏み出す話にしたいのだなと何となく自分の中で解釈した。ぼっちが変な行動をしても周りが拒絶しない(少なくともそんなに面と向かっての弄りはない)世界だと、ぼっちが気付けるようにしていたのだろう。
 最終話が始まる前は丸々ライブでやり切る少年ハリウッド形式か!?と期待する声がいくつか見られたが、自分の中ではライブを経てぼっちが何を思ったかまでやらないといけないだろうからそんな訳無いだろ、と考えていた。実際ラストは、まだ苦手意識はあるけどそれでも社会生活を続けていく、と歩み始めるぼっちで終わったので、自分の解釈が間違ってなかったと安心して見終える事が出来たように思う。

 放送終了後に脚本の吉田恵里香さんも語っていたが、意図してぼっち以外のモノローグを排除しているという事で、やはりこれはぼっちの話である、と軸に据えた作品だったのだろう。

・4人はそれぞれウソをつく

 最初は今期の中でもぶっちぎりで画面に華の無いルックで大丈夫かいなと心配していたのだが、すぐにエンジンが掛かりそこから尻上がりかつ天井知らずで面白くなっていき、最終話で4人の関係に終止符が打たれそうになるのを必死で食い止める姿にちゃんと笑いながら感動できるところまで積み上げていったのは見事だった。大佐によって頭を良くされた千代さんが3人の正体に気づく、というだけならギャグだが、母星に帰る必要があるが「帰りたくない」と、大佐も気づいていなかったところまで見抜く台詞を差し込んだのが、展開通り頭良いなあと唸らされる脚本であった。
 4人それぞれ嘘がバレないように焦りつつも力業の勢いで解決するサマがギャグになっている展開は舞台演劇的なドタバタで回す脚本ぽくもあり、それを上手くアニメとして調理して仕上げていたと感じる。女性限定で嘘を見抜いている関根が設定されているお陰で、誰にどのように嘘がバレるかどうかにバリエーションがあったのも良かった。

機動戦士ガンダム 水星の魔女

 復活した新作日5枠。日曜夕方という放送枠の大事さを感じさせるほどに、なんかかなり広く受けており旧来のガンダムのファン層を超えた作品になっている気がする。このヒットの鍵となっているのが女性主人公・ヒロイン設定な事と、何よりパワーワードを生み出す大河内一楼脚本のなせる業だと思うのだが、個人的には後者の部分があまり好みでは無い。
 1話のミオリネの花嫁発言や3話グエル君の結婚してくれ発言のように、強いワードで引いておきながら、別にそれは次週頭にすぐ本意でない事が明らかになったり即座に理性で訂正するようなワードだったりなので、キャラから出た言葉だと真面目に受け取ってもしょうがないのだと思うと、そのシーンを見てた時間はなんだったんだろう、正しく次週の引きのためだけのシーンだったんじゃないかという事は考える。全部の台詞が無駄とは言わないが、少なくともホントのホントに最終回を見るまでキャラの気持ちを考えても梯子を外されるんじゃないかとは身構えている。総集編を1回挟んだ事で年内に1クール目が終わらず、最終話を見る前に感想を書いてるわけだが、果たして1クールのまとめはちゃんとあるのか、完全なクリフハンガーで終わるんじゃないかと疑問視している。
 そして今書いたように総集編を挟んでいる訳だが、この作品どう考えてもスケジュールがめちゃくちゃヤバいだろうと思いながら見ている。

 第9話のクレジット、圧巻の原画51人、制作進行4人、進行補佐6人、動仕担当は別に5人、コンテ3人、演出2人という超多人数体制である。30分のテレビアニメでは歴史上もっとも多いんじゃないか?というレベルだ。作監の数だけならもっと多いアニメもあるし、9話はメカ戦シーンもあるので得意な作業者ごとに分担するというのは勿論だが、楽器の演奏シーンもがっつりやったぼっちざろっく最終回が原画9人で進行1人、しかも原画の内の1人は監督・コンテ・演出を務める斎藤圭一郎さん、もう1人は総作監・1人作画監督を務めるけろりらさんと考えると物凄い差がある事が分かる(勿論作画以外にも大勢の人が制作に関わっているという前提はあるとして)。ぼっちはぼっちで少人数作画の極北にあるような制作体勢なのだけれども、水星の魔女はとにかく異常な人数だ。1話落ちている(流石に元から特別編を想定していて最終回が年明けになるスケジュールは組んでないでしょ)上に、下手したら連続2クールだったのを無理矢理分割にしたんじゃないかとすら思っている。
 とはいえ、そんな邪推やスケジュールが悪い事の批判をしたい訳では無く、本題はそれだけの人数で作っていても動きや編集になんら違和感が無く、映像として破綻してないのが恐ろしいという話だ。コンテを基に演出がプランを提示して原画がそれを描くために制作が設定や作品ルールを共有する、という伝言ゲーム形式で作っているだけに、当然人が多いほどバラつきや伝言漏れが起きる。そしてスケジュールが無ければアイデアを詰め込む時間もそんなバラつきのある芝居や根本的なミスを直す時間もどんどん少なくなる、というのに全くそんな風には見えない完成映像なので、サンライズの制作とそれに関わる作画スタッフ、特にサンライズに席を置く人たちの練度の高さこわ~~…という気持ちになっている。単にカッコいい動きを描けるだけでなく、演出を理解して指示を守りつつその範囲で最大限の働きをする職人みたいな人が殊更サンライズには多いんじゃないだろうか。もしかしたらもっと時間がちゃんとあれば今よりもっとすごい映像にするのになとスタッフは残念がっているのかもしれないが。

 11話では更に状況が極まって、原画の人数こそ44人で9話より少ないものの(普通のアニメだと44人は多すぎるが)、興行収入100億超えを目指す劇場版アニメ作ってます?みたいな原画陣になっていた。その結果1クール目のキメ回でちゃんとそれだけの面子をつぎ込んだ甲斐のある画面になっていたので、このままスケジュールはカツカツで総動員令が敷かれ続けて伝説のアニメになる所を見たいとつい思ってしまうのだが、流石に制作陣の体調を考えるとそう願う訳にはいかないよなあ。

 それはそうといくら緊急事態でも単発話数で金さん工原さんを呼べるあたり、ハサウェイはハサウェイで全然制作進んでないんじゃなかろうか。

・夫婦以上、恋人未満。

 国が作った法律で結婚相手を決められる恋と嘘以上にヤバさを感じる、学校が実習のために疑似夫婦体験をさせる設定の本作(一応作中の文化庁推奨と言う事で国の後押しもあるが)。恋と嘘の場合は強制力の高い国によって正式に結婚相手を決められてしまうあたり、それに反発する話なんだろうとイメージしやすいが、こちらは学校が仮の二人組を決めているだけにもっと嫌がったりそもそも進学先に選ぶなよという設定に対するモヤモヤがやはりある。更にヒロインの渡辺星さんが疑似夫婦体験を嫌がっているかと思ったらやたらスキンシップしてきたりと、お色気シーンのための行動という感じがして戸惑うのは割と最後まで拭えなかった。
 …のだが、この作品とにかく背景美術とそれに合わせる色使いが上手くて、そのパワー1つだけでも視聴意欲をドライブさせるぐらいには画面に引きこまれた。

 GREAT PRETENDERやMUTEKINGのように、わたせせいぞうフォロワーとでも言うような色の塗り分けをパキッとさせたイラスト調背景が実に美しく、先に挙げた2作品以上に少ない塗り分けながら影やハイライトの色が際立つ方向に振っていて、青や黄色の使い方が非常に上手かった。

 特に空をここまではっきりと塗り分けで表現するのは珍しく、暮れ始める空のように色の変化が生じる時間を効果的にチョイスして情感を演出していた。そうして紡がれる渡辺星さんの想いを見ている内に段々感情移入してきて、最終的には大分ヒロインの渡辺星の好感度が上がっていた。星役:大西沙織さんも非常に良い仕事ぶりであった。このルックを維持したまま2期までやって、いっそのことお色気シーンの事はさっぱり削った上で続きが見たいぜ…と別れ難い作品にまでなっていたと思う。

 EDも本編とは異なる方向で素晴らしいルックの映像になっていて、こうした画面作りを極める事が時代のスタンダードになっていってるのだなあとより強く感じた。

アイドリッシュセブン Third BEAT!(第2クール)  ※残り4話は2/5より放送

 いつものごとく1クールの一般的な話数に収まらず、全17話という事でラスト4話は1か月先の放送になるのはむしろ堂々たる風格すら漂わせている。ただ2クール目は1クール目程にキレキレのコンテや撮影処理を拝める事があまりなく、パワーは落ちていたと感じるのだが、その分作品そのもののテーマに関する話がよく出てきたと思う。1つは19話(2クール目6話)を見た時に書いたこちら↓。

gecko-bushido.hatenablog.com

 これに加えて、1クール目を見ていた時にラスボス候補の九条鷹匡に「広告などで広く受ける存在は何か」と問われて一織が「子供や動物です」とドライに即答していたのがかなり引っかかっていたのだが、2クール目でその答えが明らかになったのも良かったと思う。
 陸の歌や身振りなど頑張っている姿が見ている者の心に訴えかける才能を開花させ始めた訳だが、単純な実力以上に陸が「愛玩対象」として見られている話が出始めたのだ。不特定の子供や動物のように、対象のパーソナリティに関わらず弱くて可愛がるべき存在こそがアイドルとしての完成形のようにすら捉えているように思える、非常に好きな路線の話だ。アイドルアニメの指南書、少年ハリウッドでもアイドルは崇める人の都合に応じて形を勝手に歪められる神であり生贄であるという話をしていたが、少年ハリウッドが定義的な話をしているとしたら、アイドリッシュセブンはその実践編といった所だろう。
 3シーズン目のボス敵・月雲了がすっかり陸に堕ちていて、最新話では自分と陸が家で異端児だったので同じ存在だと言っていたがこれはけして陸自身のダークサイドの話ではなく、陸を見た了が、陸をそのように見た事で浮き彫りになった了の内面の話なんじゃないかなと思う。捉えどころのなく倒し方も見えないボスだったが、一気に残り4話で解決の糸口が見えてきた気がする。あとはZOOLの好感度も上がるような展開が来れば十分なんだが、それがどうなるか。2クール目は狗丸トウマに関してかなり可愛い所が見れたので他3人も算段があると見ているが。

・ハーレムきゃんぷっ!

 月曜から見ている順に書いたので最後にこの作品に触れるのもなんだかなあと思いつつ、今期の感想ラストを飾る。
 ハプニングの流れで女性の同意無く襲う、主人公が実は教師で襲った相手も生徒だと分かる、だというのにまだその関係が続く、といった形で、出会いのシチュエーションの特殊さでコーティングされていない事もあり僧侶枠の中でも特に倫理観のキツさを感じさせる作品だった。
 とはいえこれは、元々少ない話数の僧侶枠かつ多人数のハーレム攻略という事で一人一人のキャラに割く時間が短い点と、うやむやなまま規制対象シーンに入ってしまうが規制部分での感情の変化が分からない点(そこで心を許すのもどうかという事かも知れないが)で余計にマイナス印象を与えたのではなかろうか。まあ別にそんな真剣に擁護したい訳でも無いのだけど。

 

〇最後に:今期アニメとか全体のまとめ
 各作品の感想でも触れている通り今期は作画が凄いアニメが多いどころか、色や背景、撮影も含めた総合的な画面の良さに目が行く作品が非常に多かった。そうかと思えば画面としては弱いかもしれないがその中で出来る限りの努力は当然しているし話とキャラが良いから面白いんじゃい、という作品もいくらでも出てくるので、今後も各作品の何が好きなのかをちゃんと見れるようありたい。
 劇場版アニメやWebアニメ、ミュージックビデオ用アニメ等でも素晴らしい作品がどんどん出てきていてそっちにも触れようかと思ったが、やはりテレビアニメという毎週固定の尺で、一度区切られる事前提で作るしかない縛りがあるからこそあの手この手で作品の色を出す事に豊かさが生まれるのではないかと考えており、同時期の別作品との比較やシナジーも生じるので「今期のテレビアニメ」という枠で感想を考える事に自分は楽しさを感じているのだと思う。