2310-12月期アニメの感想-1

 いやあ今期はホントにアニメが多いクールでしたね…。皆様の視聴本数はいかがだったでしょうか。前期の感想と、ついでに年間の10選はこちら↓

・川越ボーイズシング
 今期イチの怪作にして名作だった。クセのある凸凹な生徒の悩みを聞いて部員を集めていくよくある青春モノっぽいフォーマットなのに、部員を集める響先生にやる気が無くわがままに振る舞っているので説得らしい説得をしているように見えないから、なんだか分からないまま部員が増えていくし、加入した生徒の悩みはボーイズクワイア部のどの弱点を補強した事になったかも分からないまま話が進んでいく。
 …それなのにめちゃくちゃ面白いから凄い。感覚的すぎる学園長と響先生の台詞や、そこを気にするのかと感じる生徒たちの細かな拘りなど、頭で内容を考えようとすると置いてけぼりを食らっているのに感情的にはこれしかない気持ちのいい流れを毎回見せられるのでとても良かった。
 この作品を振り返る人はまあ全員9話の事を挙げるとは思うが、どの回も素晴らしいながら実際に突出していたのだから振り返るしかないだろう。複雑なアングルや描き込みの多いカットと、BGのみでそれを何度も兼用する省エネのカットのどちらもテンションが変わることなく効果的に差し込んでいるので非常に見てて気持ちがいい…。特に省エネカットが飽きる前にリズム良く次カットへ行けるようなコンテ(動かさずに作ってるから編集時に直接どう継ぎ接ぎするか判断してるかも)は流石シャフト系だなと感動した。10選エピソード入りです。

 次の10話も、田園を使う事があまりにも素晴らしすぎる。どんな展開でも大体テーマに当てはまる名曲の田園をこの名作アニメが100点の使い方をする、最高だ…。生きていくんだ、それでいいんだ。
 残念な
がらBDの発売が中止、放送休止を挟んだことで最終回の放送が未定(というか普通に間に合って無くて1週遅らせただけではまだ放送出来ない状態なんだと思う)になってしまったのだが、最終回を心待ちにしたい。ただ、一人原画が続いていてスケジュールが優良に見えたのにどうして…といった声も見かけたが、一人コンテ演出作監原画は止めのカットであればL/Oを1枚描けばそのまま動画仕上げに進める事も可能(やりたくてやってる訳では当然無い)なのでL/O演出チェック・L/O作監チェック・原画(第二原画)・原画演出チェック・原画作監チェックを飛ばせて大幅なスケジュール短縮になるだけに、スケジュールが無い中でこの名作を必死に作り上げている場合も全然あり得ると思うよ、という事は言っておきたい。

・私の推しは悪役令嬢。
 悪役令嬢に転生する作品が増えてきてる中でヒロインの方に転生して悪役令嬢のクレア様と仲良くするのはまた別角度からの視点で面白かった。ヒロイン側なので攻略対象との好感度の都合でクレア様が出てくるイベントが変わってくるのもちゃんとゲームらしさがあって良い。「好きな相手でも所構わず襲うわけ無いのは同性愛者でも同じでしょ」みたいな説得がされていたが、レイ=テイラーさんは普段から行動を起こしてるからその説得は当てはまらないんじゃないか…?とは思った(レイ自身がそう言い訳してるのではなく隣に居たミシャが言ってたんだけど)。
 レイ自身が強引に振り回していてももう一歩踏み込めないのが同性だからと理由づけているのはセクシャリティ単体の問題ではなく、乙女ゲームの中の人物だからそこは変えられないのだろうという諦めなのかなと個人的に思っていて、そこもゲーム世界である事をちゃんと踏まえているのが良かった。自分が前世でプレイしていて愛したキャラ設定がそうだからとオタク心にも縛られている感じ。
 最後に本当にどうでも良い話をすると主役の名前がレイなのだが今年の初めに冰剣の魔術師が世界を統べてしまったので名前を聞くたびにそっちしか浮かばないなと思って見ていた。

・とあるおっさんのVRMMO活動記
 MAHO FILM作品は自分にとって愛すべき緩い作風とは思えず、普通にしっかり作って欲しいと思うもので、本作も原作からしてそうなのかもだけどゲームの設定やさらにそれを取り巻く環境に気になる所が多くてあんまり集中して見れなかったんだが、独自性では突き抜けていたので良かったのかもしれない。6話を最後に現実世界の姿が出てこず浪川大輔さんもクランクアップだったのは嘘だろ!?と思ったが、確かにそれ以降は殆どプレイヤーと絡まず終盤完全にNPCとの会話ばかりだったので、よりゲームの世界に没入して行ったと思えば正しいのかもしれない…。色々とかもしれないとしか言えない…。
 あまりにも質素な背景が流れてるだけのCMが最終回で新しいモノになります!って告知があったと思ったら、違う背景が流れてるだけのCMになっていてズッコケられたのでそこは純粋に良かった。

B-PROJECT ~熱烈*ラブコール~
 ありとあらゆる手段でBプロメンバーや澄空さんにストレスを与えていった3期。理不尽な仕打ちをスカッと解決するのではなく、相手が理不尽な事を言ってくるのもしょうがないと受け入れて地道な努力で軟着陸させる事に一貫性のあるシナリオが珍しくて結構好きだった。アイドルモノだとなんかアイドルパワーで爽やかに解決した空気を出してる風で済ましてしまう作品も多いだけに。
 新キャラのウルトラズも
、配信者=迷惑を考えず行動するタイプというイメージのままに最初やらかした時は、よくある作中で許されてるけど視聴者にとっては不快感が拭えないままの存在だと思ったが、打ち解けてきた所で2度目のやらかしをした後に、訪れてきた澄空さん相手にもつい失言していてこういうキャラなのだと逃げない徹底ぶりがあって良い。ずっと我慢してた澄空さんがついにキレる(すぐまた抑えるけど)きっかけをここに持ってくるかという嬉しさがあった。そのどん詰まり感を、1期最終回で視聴者の心を鷲掴みにした夜叉丸さんの再登場一発でひっくり返すのも上手かったと思う。作ってる側の想定の100倍ぐらい夜叉丸さん登場のパワーが視聴者に対してあったから起きた事な気がするのはさておき。

・ミギとダリ
 ド名作
…。母親も死亡し、二人だけの世界に閉じこもっていたミギダリが段々とそれぞれの友人や恩人を増やして世界を広げていくのが良かったね…。最初はそのシリアスめいた空気も全部肩透かしのギャグになるんでしょ?と思ってただけに、ここまでシリアスに移行しながらもギャグも維持する作品となったのは驚いた。4話で最初はサリーちゃん(女装ダリ)に惚れて浮かれるミギの話になるかと思いきや、その真剣さに心打たれてちゃんと騙しきってやろうとするダリの話に入れ替わるのが鮮やかで、そこからより一層視聴に身が入っていった。ミギとダリ・更には瑛二誕生の秘密とそれで更に狂った怜子の過去はあまりにも辛すぎるものだったのだが、復讐に囚われなかったのは終盤でも隙あらばギャグも混じる作風かつ、そのギャグからまたシリアスに転じたみっちゃんのような誇り高い人間が現れてくれたからだろう。なんだったんだあのただゴシップ好き精神で首ツッコんで来たと思ったら物事が全部解決するよう動いた上で自分の命までかけてくれた聖人は…。
 ダリ役の村瀬君が女性キャラ演技も得意な事は既に周知の事だったけど、ミギ役の堀江君も同じレベルで上手くて、特にコミカルなおばさん的な演技は村瀬君以上で大変笑わせてもらった。

・聖剣学院の魔剣使い
 おねショタ嗜好の設定でそのショタ主人公役も井上麻里奈さんなので非常にツボだったのだが、あまりそのポテンシャルは発揮されず残念だった。
 途中で襲ってきた獣人族の中で燃えるライオンさんがシュールで人気だったが、個人的にはツッコミが入らないまま進んだこっちもお気に入りだ。

・Paradox Live THE ANIMATION
 エイベックス主導のラップアニメ。ヒプマイ2期と同時期に放送となる運命力が発動していた。ヒプマイにもリスクのある違法マイクはあれどメインキャラは合法マイクを使っているのに対して、こっちのメインギミックであるファントメタル自体がドラッグのような存在で、それに頼っているのはラップのイメージとしてそれで良いんだろうかと思わなくもない。
 アレンのトラウマである父が他人を傷つけるファントメタルのラップなんて辞めろと言ってくるのが正論でしかないし、この話が綺麗に収まっても今後も続いて行くならまたトラウマと向き合う所に戻るよなあ…と思っていたのだが、最終回がやたら良かったので全部まあ良いかと思えた気がする。ファントメタルに囚われたカナタを取り戻すための説得で「お前は一人じゃない」というお決まりみたいな台詞がけして俺たちが居るからではなく、亡くなったナユタが居たからに繋がるのは凄く良くて、たとえトラウマがあってもラップで自分の確かな居場所を見つけた事が大事で、ここまで噛み合ってないように感じていた設定ながらも言いたかった事とピタッとハマったなあと思えた。最終回で一気に今期上位に好きなアニメにまで上り詰めたなと感じている。

聖女の魔力は万能です Season2
 乙女ゲーらしい構造の作品で2期はこれまで以上に関係が進展して見ていて楽しかった。結婚云々の話が出てきた時に、視聴者的には当然本命のホークさんとくっ付く結論が見えている中で「なら俺とするか?」と先に切り出したヨハンさんは非常にGJだった。今まで恥ずかしくて秘めた想いだったがここしかないと絞り出した感じで、敗北幼馴染のような輝きを放っていたのが大変萌えだね…。

・東京リベンジャーズ-天竺編-
 期間を空けて続編のアニメ化なのにOPが前期の2番に変わるだけなのは珍しかった、実際凄く良いOP曲だから良いんだけども。誰かが「あいつは〇〇の××なんだ!」って言うとタケミっちが「〇〇の××!?」ってただ繰り返すだけのあまり練られてない所があったり、結局天竺との抗争における戦力差はなんか有耶無耶になったり、稀咲が惚れたヒナはタケミっちが好き→タケミっちはヤンキーに「なろうとしてる(ヒナにも言ってない)」→ヤンキーとして上り詰めたらヒナが惚れると考えてる稀咲の思考が全く意味分からなかったりと、原作自体の失速を感じてしまったが、まあ完結までアニメ化してくれるだろうので見届けよう。
 突如差し込まれた九井が乾に対して惚れていた乾姉の面影を重ねる話があまりにも戦いや話の展開にまるで影響が無く、ただ関係性を盛り上げたいだけだったのは流石に笑ってしまった。

・Helck(2クール目)
 2クール目もめちゃくちゃ面白かった。これもミギとダリと同じく1クール目序盤の流れ的にずっとギャグで行くと思っていたのだが、早い内からシリアスに転換していて、結構長い事回想が続いていた。まあそれも面白いんだけどこんな悲しい過去があるのに序盤でギャグやってたのは良いのか…?というモヤモヤを抱えたまま見ていたのだが、回想ラストでヘルクが笑っている事の意味が明かされて見事だった。明るく笑っているが悲しい過去を抱えている、ストレートでは無い感情のヘルクを表現するのに小西さんの演技はピッタリで、丁度終末のワルキューレの副音声で中村悠一さんがしていた話に通じるなと思った。明るさ100の演技ではなく明るさ60・その裏に含んでいる感情40をバランスよく混ぜる事が出来る匠の技だ。

・婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む
 特に4話以降隔週でローテに入っていたスタッフの回での画面が良くて、アップの密度と引きの簡略化の仕方やギャグ顔の表情の付け方、それをモブにもしっかり適用できる上手さが光っていた。

 9話からのアテナ魔法学院編は、ヒロインの妹に会いに行ったら主人公の方の家族とご対面する事あるんだ、ってのが面白かった。

・ブルバスター
 なんか…世界観設定もキャラ付けも話運びも凄いアニメだったぜ!巨獣が居るので島民を避難させて駆除しないといけない設定なら行政に頼れないのだろうか…とか、全員足を引っ張り合っている性格してる…とか、クラファンがダメだしこのままだと大企業の闇に飲まれるから迷惑系配信者になってやる流れは謎過ぎる…とか、こんなに全部がシナリオの段階で上手く行って無さそうなのは稀に見るレベルだったと思う。突き抜け過ぎててラスト2話はむしろ楽しくなってしまった。

・陰の実力者になりたくて! 2nd season
 2期も自分は全然作品に馴染めず…。いや、周りのTLの人らには1期からかなり好評だったので自分の感覚の方が少数派なんだろうなとは思うし、流石にこの作品がやりたいのはシャドウ君の目論見とは別の結果になってしまいトホホとなるのに反して、シャドウ君の信奉者は幸福になっていくチグハグさを楽しむものなのだろうなとは頭では分かっている。確かにどんな経緯でも幸せなら良いし、シャドウガーデンの中心メンバーたちがシャドウ君に救われなければもっとひどい人生を送っていたのはちゃんと説明されているのだが、それでも何だかかわいそうだな…という気持ちになってしまった。
 EDがとても素晴らしくて、曲の良さから入ったのだが歌詞も遠くで瞬くシャドウ君に少しでも近づきたいと思うシャドウガーデンの人たちの切ない願いを歌っていて好きだった。その上で本編6話でもアルファがシャドウと戦ってる際に「あなたの事が分からない」と踏み込む展開は凄く良いと思ったのに、結局分かり合えることは無く終わってしまったのが残念だったなあ。自分で原作を読んていないので正確な所は分からないが、シャドウがアルファに強くなったと褒めるシーンがカットされてしまっていたと聞いて猶の事辛くなった(アニメのシャドウ君の事を考えると急に良いヤツになる方が変だとは思うが)。落第騎士の英雄譚のアクション作画や、こみっくがーるずのコンテ演出作画監督一人原画回など、中西和也監督の仕事はスピードと技術の両面でめちゃくちゃ好きなのだが、陰実劇場版を見に行くかはかなり悩んでいる…!
 ミギとダリ11話で不倫の現場を覗き見るシーンを見た翌日に、こっちでも不倫現場の目撃をやっていて最悪のシンクロニシティが発生していたのが良かった(良くない)。

ウマ娘 プリティーダービー Season 3
 1期2期に比べると感動度合が少ないと感じるのは多くの視聴者と同じ気持ちではあるが、明らかに熱血路線ではない話をやろうという意識あっての事だと思うのであまり残念ではない。まあスペシャルウィークトウカイテイオーがGⅠ4勝でそれも十分凄いのに対してキタサンブラックは7勝もしているので、チャレンジャーの話にはなりようがないという事なんだろう。全盛期のような奇跡の復活ではなく、ピークから衰えていく自分とどう向き合うかな話であると同時に、お前が衰えたって言ってもじゃあそれ以下の順位の私たちはどうなんだと奮起する周りのウマの想いに絡めたのはやはり上手い。これがマシンレースにおいてスペックが違うとか、現実の陸上競技で人種や血統が違うから勝てないなんて言うのは言い訳に聞こえてしまうし、MFゴーストのように逆にスペックで劣っているんなら技術で勝つのが面白い話になる
が、本作は元々ウマという別の生物に乗って走る競技だからこそこうした運命で決まっている才能の話・衰えを感じつつも周りからの期待に応えるべく文字通り鞭打つ話が出来ており、ウマ娘でしかやれない事をやっている感は良い。
 レース描写についても、実際の競馬で見るような引きの絵で大人数が映っているカットや、迫力あるアングルのカットが増えていて見応えがあった。

・16bitセンセーション ANOTHER LAYER
 若木先生の美少女ゲーム(というかエロゲー)に対する熱意がよく分かる作品。同ジャンル作品の数はそんなにプレイしてないけど未だにずっとサクラ大戦に魂が引かれたままでいる自分も、シミュレーションゲームが持つ魔力みたいなものは確実にあるなと思っているのでこの作品の人物が語る熱量は何となく分かるなあという気持ち。
 過去にタイムリープして現在の世界を変えてしまっているが、綺麗に元通りにせずにコノハの思う世界線だけ引っ張って来ればいいと舵を切ったのは1クールで変化を付けつつまとめるために良かった。AIを活用するだけでは魂のこもった作品にならない、という理論自体は大昔から色んな作品で用いられるが、じゃあ悪の企業は人間の脳を活用するねと手を打ってきたり、AIイラストだけでなくAI合成音声も使ってきたり、魂の重要性について謎だと思っていた地球外生命体のエピソードが利いてきたりと、定番の話にならないように練られていた。
 まあでもこのアニメ最大の魅力は何と言ってもヒロインのコノハさんが凄く可愛かった事で、そこを外さないからこそ美少女ゲームの素晴らしさを語る作品として説得力があったなと思えた。いかにも二次元二次元した大袈裟な言動ながら、古賀葵さんの声がピッタリハマっていて一挙手一投足が可愛かった。

・暴食のベルセルク
 特徴らしい特徴はあまり感じなかったが、道中フェイトとグリードの男?二人だけの会話になる事が多くても楽しく、良いコンビだったと思う。OPがいかにも作品の事を歌ったようなタイプのアニソンらしい曲調だったが、この作品の何がジキルとハイドなんだろう全然関係無いが…と毎週クスッと来ていた。

Dr.STONE(3期2クール目)
 自分にとって数少ない原作を読んでいるアニメの1つだが、いや~本当に良いアニメ化だ…。気を引き締める所ではキャラをカッコ良く、緩める所では可愛く描く、原作通りにしたってアニメ化するにあたって流れやペース配分がある中で原作の持つ魅力をしっかり引き出してくれている。最終章の制作も告知されたし、満足すぎて逆に言う事が無いぐらいだ。とりあえず最萌えキャラを置いておきますね。

・柚木さんちの四兄弟。
 両親が二人とも亡くなってしまったが家と生活は親の印税で賄えるし長男は既に職に就いているから大丈夫というのは、かわいそうな男兄弟が身を寄せ合うホームドラマをやりたい欲が勝ちすぎている設定だとは思ったが、それでも丁寧な演出でその設定の中でやりたい事をしっかり描いていて面白かった。この作品の中で挙げておきたい演出と言えば、当然実写背景の巧みな使い方になるだろう。序盤から使用されていて面白いなと思っていたが、最終回で両親の墓参りに出かけるバスから見る窓の外の流れる風景が実写だったのは使いどころの上手さに唸ってしまった。


 末っ子の岳が見ている景色の表現として使われた実写背景。実際にその意図で用いたかは分からないが、これを見て正しく自分が子供の頃に親が運転する車で出かける時に見ていた窓外の風景と一致するなと思い出が蘇った。自分の意思で運転して移動している訳では無くただ座って揺らされながら待つ感覚、普段の自分の行動範囲には無い場所、でも定期的に行くので何となく見覚えがあるというぼやけた輪郭の景色。たまに夢にも出てきたことがあったような、でも別の場所かもしれないようなあやふやな記憶。特に岳の場合は、両親の記憶自体もおぼろげであるだけに、頭では他人事と思っていないが心の中では分かっていないような、現実感の無さを抱いている状態だったのではないかと思う。そんな現実感の無さの表現するために現実の背景を用いる、というのがあまりにもクールだった。

・呪術廻戦(2期2クール目)
 過酷な環境で作ってるのはどこもそうだろうしまー別に…。この作品の注目度だから同情してもらえたのかなと…。
 作画の素晴らしいアクション回以上に、一話を通じてテンションが統一されていた釘崎の回想の43話が一番好きだったなあ。
単純に原作の良さが戦闘以上にそっちにあると感じているのもあるが。田舎で幼い釘崎が暴れているギャグカットにも落ち着きがあって、最後の虎杖との別れ際のシーンに綺麗に着地した感じだった。絵コンテ・演出:宮島直樹さん。

・お嬢と番犬くん
 呪術と違ってこっちは実際にスケジュールの影響が画面に現れていたアニメ。台詞を喋っているのに口パクがズレてる所か口パクしていない、作画は夕方のシーン色なのに背景は昼の青い空になっている、同じシーンでパジャマとチャイナみたいな服とがコロコロ入れ替わるetc...。このレベルのミスが直されないまま放送されるのは久々に見たなという感じだった。制作側というか委員会側もこれでOKにするんだとは思うものの、放送を落とさなかったので素晴らしいことだよという気持ちにもなる。同期のNo.9制作アニメの中で一番早くスケジュールの影響が出ていたが、背景だけで乗り切るカットとか、キャラを動かさないようにしているカットも多い中で、それでも話やシーン単位で何が起きてるかは分かるようになっているのは結構凄いことだと思う。

るろうに剣心明治剣客浪漫譚-(2クール目)
 凄く良い再アニメ化だったのでは。どうしても原作や前のアニメでも人気だったバトル漫画要素の印象が強かったので、蒼紫や斎藤を出すまでにこんなゆっくりやっていて良いのか?と最初は思っていたのだが、それ以外のかませだった幕末思想に囚われたゲスト怪人たちもどうしてあっさりやられるのか、どういう心のありようが剣心と違うのかをちゃんと描いていた。大枠は変えないまま、幕末の血生臭い戦いを生き抜いた強さと今はその強さをもってして殺し合いの輪から降りている覚悟の両面を併せ持つ主人公の設定をこんなにも活かした話が出来るんだなあと作品を再構成・再定義する上手さが見事だった。

・アンダーニンジャ
 主人公である九郎君の真意や実力がどういったものか分からないまま決戦に挑んで最終話で死んでしまったので色々謎だったのだが、それも忍者らしいのか…?とはいえ気になる所が諸々回収されないまま終わったのは原作からしてそうだろうので、原作通りの情報の開示度合だとは思うがもうちょっと山場が欲しかった。今回の記事のサムネイルにもなっている字幕はアンダーニンジャより採用しています。

冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた
 どうも自分にはピンと来てなくてアンジェとベルグリフどっちが主人公なんだろう、どっちもだと言う事も出来るが、と思っていた。だからこそベルグリフを知るかつての仲間:カシムがアンジェとベルグリフ両方の存在を繋いでくれていたので最後の話は好きだったのかもしれない。

・ポケットモンスター(3クール目)
 3クール目も面白すぎるね…。10選では3クール目から、32話でポケモンが居る世界とはどういうものか、「ポケモントレーナー」とはどういう存在かの定義を拡張したのが最高だったという事を書いた。

 しかしそれ以外の話数も毎週面白く、単話を選出するには非常に悩んだ。これは通年モノで1話1話には大きな縦の流れは少なく、各話それぞれにそれぞれの特色があるからなのだが、それにしたってそんな独立した各話がここまで面白い通年モノもそうそう無いので、3クール目で特に思い出深い話数を振り返っていく。
 25話、何と言っても2クール目に出てきたネットでも大人気のサンゴちゃんと実際に戦う事になる話な訳だが、これが本当に良いキャラをしてる…。単に生意気な子供な訳では無く、キレたらマジでヤバい奴なのが素晴らしい。幼いようだから善悪の判断がついてないとかでなく、しっかりライジンボルテッカーズに立ちはだかる敵として容赦が無い行動に出てくる。自身の手持ちポケモンに大爆発を使わせる、というだけでもキャラ付けになるのが上手いね。しかもキレるきっかけがピカチュウの強さに対してでポケモンが持つ最大の強みともいえるCV.大谷育江さんという存在を余す事無く活用している。サンゴちゃんがキレる演出と作画、最高だった…。絵コンテ・演出:髙木啓明さん。

 27話はこれまでで一番コミカル色が強めだったが、その分これまでにないライジンボルテッカーズの面々、とりわけリコさんの表情が拝めた。シンプルに可愛くて嬉しいのもあるが、内向的だったリコさんがこれほどまでにチームに打ち解けられているのは2クール以上過ぎての変化として嬉しかった。

 28話はいにしえのモンスターボールについて詳しく知る人を探す回。情報を知っていると思われたお爺さんは嘘をついていただけなのだが、そんなペテン師のお爺さんはお爺さんでちゃんとポケモンと信頼を築いているのが面白かった。昔は真っすぐだった過去がのちに明かされるとはいえ普通に考えて悪人なんだけど、ポケモンにはゴースト・あく・どくタイプ等が居る事でこれも一つのポケモンとの共生の在り方になっているのが凄い。本話数は恒例の岩根雅明さんによる一人原画回となっているが、省エネどころか他の回よりも登場ポケモンが多くてしかも表情豊かかつよく動くような回となっており、悪戯心のあるポケモンたちを実に可愛く描いていたのが素晴らしかった。

 30話、ブレイブアサギ号に紛れ込んだポットデスが船内のポケモン達と仲良くなってそのままメンバーになる回。野生のポケモンだけで群れてるんじゃなく、ゲットされたポケモンたちもトレーナー抜きでコミュニティを作ってるのが世界に奥行きを与えていて凄い回だ…。そんなポケモン達が認めたポケモンなら新たなブレイブアサギ号の仲間だと認める大人たちも最高。なんでこんな良い話を連発出来るんだ新ポケモン

 そしてここまでは話数の紹介だったので言うのを控えていたが、何よりも3クール目からの新OPが素晴らしい。最新作ポケモンSVの新要素であるテラスタルをモチーフにしたような輝かしい光の数々とその輝かしい未来に辿り着くために協力しあえる頼もしい仲間たち…。映像自体の物語性とそれを作り上げるための技術の高さの両面で感動してしまう。間違いなく2023年ナンバーワンOP映像です。

 一体この面白アニメがいつまで続いてくれるのか…。ゲームはDLCも全て解禁され一応の完結となったが、アニメで現在目的としている六英雄のゲットとその後を考えると少なくともあと3クールは続いてくれるだろうか、と楽しみにしている。

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 今期は感想が長めになったので記事を分けておきます。その前に閑話休題で今期恐らく最も出演本数が多かった八代拓さんのクレジットを載せておく。

 今のアニメの制作スケジュールを考慮するとずっと前に録ったものを今ようやく放送する作品があるだろうし、出演にしたって1話限りのゲストキャラも多いのだが、今この人は来てる!と思ってた人が実際にぶっちぎりの出演本数となっているのは嬉しいものだ。元からキンプリのカケル役などで好きだったとはいえ、一段演技が上がったなと思ったきっかけとなったのは「真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」だが、丁度24年1月期に2期を放送するので運命的なモノを感じる。まあ八代拓さん演じるアレスは1期で死んだんだけど…。

 さて感想の続きはこちら↓