少年ハリウッドについて考える①:前置きと第1話

 アニメ「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-」「~FOR 50-」(以下、少年ハリウッド)について、今更ながら振り返っておきたくなった。
 少年ハリウッドとは、作品タイトルと名前を同じくするアイドルグループ・少年ハリウッドのメンバーがアイドルとは何なのか、素の自分たち自身とアイドルとしての自分の違いとはなんなのかを思い悩みながら成長していく物語だ。監督:黒柳トシマサさん、制作:ZEXCSという事でバクテン!!のスタッフが過去に作ったアニメになる。2014年にFOR 49(1期)、2015年にFOR 50(2期)を放送した作品なだけに、最早一昔前のアニメとなってしまったのでそもそも少年ハリウッドを知らない、知ってても当時見ていなかった人の方が多数になっているかもしれない。
 元々放送当時もそんなに見てる人自体の数が多くない方だとは思うのだが、それでも今更になろうと自分が思った事をまとめておきたいし、他の人にも今からでも見てもらいたい作品なのだ。見てもらいたいというより、「見た方が良い」と断言するべき作品だろう。長い事アニメを見て来て自分に強く刺さった作品は他にも数あれど、(流石に最近は)それらを勧めるとしても「見たら面白いと思うよ」というスタンスになった。自分もいい加減自身の感覚に対する変な過信をするのは止めた方が良いと気づいたからだ。それなのに少年ハリウッドだけはつい言い切りの形で紹介したくなってしまう…。

 これは少年ハリウッドが特別他のアニメよりも自分にとって面白かったというより、作品の持つテーマ的に他のアイドルアニメを見る上での理解に役立つ教科書のような作りになっているからだ。ここまで概念の話、それも比較的近年固まったアイドルというテーマについて一つずつ真理・答えを導き出しながら、しっかりと作中人物の歩むストーリーの形をしていて、キャラクターに愛着を持てる作品は今後もまず出てこないだろう。今の世の中、ソシャゲやVTuberやらとの相性の良さもあり、歌って踊るコンテンツの人気はまだしばらく衰えそうに無いだけに、是非アイドルとは何か、もっと広く言えば他人から人気を得る事で確立させられる自己とは何かを学んでおいて損は無いと思う。
 そんな訳で少年ハリウッドについて書いていこうと思う。まずは1話についてなのだが、自分は初回放送時にこれを見ていきなりガッと心を鷲掴みにされ、以降全話楽しく見ていたものの、意外と楽しんで見ている人達の中でも序盤数話はよく分からないまま見ていたという声も聞くことは聞く。もし万が一今からでも少年ハリウッドを見てくれる人が居て、楽しむ適性があるのに1話で止めてしまっては勿体ないので大事にしたい。

 別にこれは作品にとってはどうでも良いことなのだが、AT-Xで最速第1話を見てAパートで既に打ちぬかれ、1話を見終えてすぐにもう一度見返し、数日後の地上波のサンテレビでも見た上で、月刊少女野崎くんとの被りさえ無ければBS11でも、と週3度見たかったぐらいにはドハマりしている自分の図だ。1話からのめり込んでいる事が分かる。「今の所」とか「今後どうなるか分からない」といった保身めいたワードが散見されるが、単に最初良くても後々冷めて言及が少なくなってしまう自分の性格を理解しての発言なだけだ。その保身も結局杞憂に終わっていて、これ程までに全話ずっと面白いというのは中々無い体験であった。当時は年間10選の企画とかに参加していないが、参加した場合1つ1つの話数全てが候補話数になっていてもおかしくなかっただろう。

第1話「僕たちの自意識」

・あなたはアイドルになれるか?

 さて、前置きが長くなってしまったがようやく1話の内容について触れる。それでいていきなり1話の終盤の話になってしまうのだが、最も根幹にあるテーマと言える話だ。初めてメンバーが揃ったレッスンを終えて劇場・ハリウッド東京から帰る電車の中でメンバーの1人・甘木生馬(マッキー)と主人公の風見颯(カケル)は、見知らぬ女性たちの好意的な目線に対してこう会話する。

マッキー「俺さあ、チラチラ見られて、コソコソカッコいいとか言われるのと、あいつ気持ち悪いっていじめられるのと、そんなに変わんねーんじゃないのかなって思う事あるんだよな。」
カケル「じゃあ、アイドルになってキャーキャー言われるのって、いじめられてるってこと?」
マッキー「あー、なんか紙一重な気がする。…まだ俺ら、人前で何かやったことないから、よく分かんないけどさ、キャーキャー言われて手ぇ振られるのって、裏返せば、バイバイって事なんじゃないの?アンタたちこっちの人間じゃないからねって。」
カケル「…考えすぎ、自意識過剰。」

 

 生っぽい会話自体の上手さと、テーマの核心を突いたセリフを書ける脚本力の高さに感動する。ちなみに本作は原作・シリーズ構成・全話脚本・(ミスモノクローム楽曲以外の)全作中曲作詞・作中グループの前身:元祖少年ハリウッドの活躍を描いた小説の執筆といった全てを、橋口いくよ先生が1人で担当している。それだけに強烈な作品の個性が細部に至る所まで統一感を持って表現されている。
 では↑の台詞自体の話に戻るが、多くのアイドルアニメで「自分たちの顔の良さ」をテーマに選ぶ作品はまず無いだろう。太っているとか老けて見えるとか、個別の身体的特徴の悩みにフォーカスする事はあっても、顔の良さという総合評価を判断基準に持ってこれるものではない。だってアニメキャラは顔が良いのだから。
 じゃあ顔の良くないキャラクターデザインをしている主人公のアイドルアニメを作れば良いのかというとそうではない。そもそも顔の良さというのは、「アイドルにとって必要な要素とは?」と聞かれて多くの人がまず最初に挙げる項目だろう。だが、世の中のアイドル全員を、見ている人全員顔が良いと思うかというと当然そうはなってくれない。「顔が良い」というのは他人が判断する相対的な評価であるからこそ絶対的評価の正解は無い、というのはそれこそ全員が理解している事だ。
 それを踏まえて猶、アイドルになる人間はどうやったらアイドルになれるのか、という話をしているのがこの第1話なのである。勿論オーディションや、少年ハリウッドのメンバーのようにスカウトされ、人から認められるステップを踏まえる必要があるが、結局は本人がアイドルになると認めてステージに立つことが本当に必要な要素なのだ。つまり、「あなた自身はアイドルになる顔の良さを持っているのですか?」と実質聞かれて「はい」と答えられるかどうか・他人によって決められる価値の正否を自意識で結論づけられるのかどうか、をここでは問うているのである。覚悟の話では無く自意識の話だ。たった1つのシンプルな問いでありながら、そう答えられる人間は一体どれだけいるのか。アイドルになれる人間はその壁を乗り越えているのだという特別さが伝わる。

・他者からの期待に応えられるのか

 シーンが前後するのだが、ハリウッド東京でのレッスンにて、勝手に決められた自己紹介フレーズを披露する事を恥ずかしがってしまった舞山春(シュン)に、その勝手に決めた張本人であるシャチョウはこう言っている。ちなみに1話で一番好きな台詞はこれだ。

シャチョウ「皆さん見ました?恥ずかしい事を恥ずかしそうにやる事が、どれほどまでに恥ずかしいか。成りきる事、やりきる事、それを大切にしなければアイドルはただの恥さらしになる」

 

 また、1話ラストで家に帰ったカケルが自己紹介を練習していると妹が乱入してきてこう言い放つ。

風見紗夏香「お兄ちゃんうるさい!えっ、なに、なにやってんの!?なにそのポーズ!?世にも恥ずかしすぎるんですけど…」

 

 前述の自意識を乗り越えてアイドルになっただけでは何も始まっていない。今度はアイドルであり続けるために、他人から実際に評価される事態が発生するのだ。それは他人からの相対的評価を高めるという事だけでなく、他人からの期待に応えるための新たな自意識との戦いにもなってくる。自分が少年ハリウッドを見る更に数年前から現実のアイドル、特に同性のアイドルに対して感じていた大変さを、話の一イベントでなくテーマとしてここまで上手く組み込めるのかと見せられてしまったら、それはもうこの作品に期待するしかなくなるというモノだ。1話から淀みない流れでテーマを語りつつ、少年ハリウッドとは、ハリウッド東京とは、メインの5人とそれを取り巻く環境とは、を全て明らかにしている。(他人からの期待に応える、というのは以降の話数でも出てくる話なのでちょっと今は具体的に書かない事にしたのだが、ちゃんと覚えていられますように。)

・あとがき

 数年前からいい加減少年ハリウッドの話を文章にしておきたい…と思うものの自分の下手すぎる文章ではめちゃくちゃ時間が掛かるのでいつまで経っても出来ないままだった。だがそれだと進まないので、とりあえず1話だけ形にした次第だ。2話以降の話をいつになったら出来るかも全くの未定なのだがどうにか続けたい。